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まず最初にこの作品が、クラウドファンディングを契機に成立したことに言及したいと思います。監督の片渕さんの熱意は、原作者の こうの史代 の映画化了承を取り付け、広島の地区を中心にアニメ化を望む声が高まってはいたものの、資金の調達目途が全く立たなかったというのが当時の状況だったようです。そこで2015年3月に2000万円を目標としてクラウドファンディングでスタッフの確保やパイロットフィルムの制作費用を集める試みに出たのです。しかし最終的には、5月の末までで日本全国47都道府県3374人の支援者が集まり、3912万1920円の支援金を集めたとされています。支援・投資を申し出たひとの数は国内クラウドファンディングの過去最高人数を記録し、集まった金額も映画に関する部門では国内の最高記録となりました。これは、『この世界の片隅に』という漫画の魅力を知る人がいたことと、その内容を何とか映画という手法でもっと多くの人に伝えたいという熱意が結実したものと思います。

原作者の こうの史代 は、2010年8月に、片渕監督からアニメーション映画化の許諾を請う手紙を受け取り、彼の前作である『マイマイ新子と千年の魔法』のDVDを受け取った時に「こういう人になりたい、こういうものが作りたいと思う前途にともる灯」として捉え、アニメ映画化は「運命」と喜んだと言います。運命的な出会いであったろうと思います。

本作で何といっても惹かれるのは、コトリンゴが担当した主題歌と音楽です。予告編で利用されていた「悲しくてやりきれない」がクライマックスでグイグイ涙を誘ってくるのかと思いきや、その他にもふんだんに流れる良曲が我々観客を主人公すずの世界に引きずり込んでいきます。コトリンゴは素晴らしいピアニスト、シンガーとして以前より知っていましたが、これだけの映画音楽をできるとは思っていませんでした。よくよく見返してみたら芸大卒の素晴らしいアーチストだったんですね。見直してしまいました。

主人公 すず 役に起用された のん は、私にとって相変わらずのーねんチャンですが、バッチリのはまり役だと思います。片渕監督が彼女の喜劇性と繊細さを高く評価してオーディションへの参加を促したのがきっかけとのことですが、映画の製作自体が軌道に乗っていない時期に のん 自身から「私がすずさんをやりたい。」との手紙が来たと言います。演出も出演も一体化したモチベーションがこれだけの作品を生んだと言えるでしょう。収録の期間中、のん は私生活でも広島弁をしゃべっていたと言いますから、その熱意は生半可ではなかったと思います。呉弁と広島弁の違いすらストーリーに絡んでくる本作で のん の吹き替えは、地元の人たちからも違和感がないとされ、すず というキャラクターに命を吹き込んだと言えるでしょう。

惜しむらくは、作品の長さです。128分という作品の長さの中に漫画の持つすべてのエピソードが入りきらず、目まぐるしいようにストーリーが流れていきます。しかも、朝日遊廓「二葉館」の遊女 リン のエピソードは中途半端になってしまいました。闇市での買い物の帰りに道に迷った すず と偶然知り合うくだりは出てくるものの、周作 と浅からぬ仲であるエピソードは出てきません。また、同じ遊郭の テル についても、その遺品である艶紅が出てくるものの、映画しか見ていない観客には片手落ちになってしまっています。本作プロデューサのTweetによれば、また資金が集まれば全長版の公開をしたいとされていますので、そうしたらぜひ劇場まで足を運びたいと思います。

本作は文化庁文化芸術振興費補助金を受けて作成されていますが、私が最もこれを見せたいのは安倍晋三をはじめとする現政権を握る内閣大臣と官僚の面々です。これを見た後に今の戦争に突き進む政策を継続できるのか、心から問いたいと思います。また、この作品をクラウドファンディングという手法まで駆使して成立させた日本人のパワーがまだ残っていることを誇りに思います。

★★★★☆

監督・脚本 片渕須直
脚本 片渕須直
原作 こうの史代『この世界の片隅に』(双葉社刊)
製作 真木太郎
製作総指揮 丸山正雄
出演者 のん、細谷佳正、稲葉菜月、尾身美詞、小野大輔、潘めぐみ、岩井七世、牛山茂、新谷真弓、澁谷天外(特別出演)
音楽 コトリンゴ
企画 丸山正雄
監督補・画面構成 浦谷千恵
キャラクターデザイン・作画監督 松原秀典
美術監督 林孝輔
色彩設計 坂本いづみ
動画検査 大島明子
撮影監督 熊澤祐哉
編集 木村佳史子
音響効果 柴崎憲治
録音調整 小原吉男
プロデューサー 真木太郎
後援 呉市、広島市
助成 文化庁文化芸術振興費補助金
アニメーション制作 MAPPA
製作統括 ジェンコ
製作 「この世界の片隅に」製作委員会
(朝日新聞社、AT-X、Cygames、TBSラジオ、東京カラーフォト・ウィングス、東京テアトル、東北新社、バンダイビジュアル、双葉社、マック、MAPPA、ジェンコ)
配給 東京テアトル
上映時間 128分
製作費 2.5億円
興行収入 25億円(2017年3月25日時点)